目的:繭の外層タンパクであるセリシンをほどよく落とし、層をふわっと開きやすくするための前処理です。
セリシンは熱+アルカリで可溶化が進みますが、やり過ぎると絹本体(フィブロイン)の強度が落ちるため、温度・時間・濃度の管理が大切です。
目次
注意:長時間・高温・高アルカリは繊維ダメージのリスクがあります。
本ページの温度・時間・濃度はあくまでも私たちの工房でのやり方です。
事前準備(濡らし)
乾燥繭は浮きやすくムラになりやすいので、煮る前に十分に含水させます。
- 温水で30〜60分浸漬(前日から一晩浸け置きでも可)
- ゆっくり押し沈め、繭の内部まで水を行き渡らせる
レシピ(重曹版/ソーダ灰版)
工房の作業では、穏やかに進める重曹(NaHCO₃)版と、短時間で仕上げる炭酸ナトリウム(Na₂CO₃=ソーダ灰)版の両方を使い分けます。
分量表記の考え方:基本は g/L(溶液濃度) と 浴比 で統一します。
目安:繭500g:水10L(浴比1:20)
レシピA:重曹(NaHCO₃)+粉石けん〈やさしく・じっくり〉
- 繭:500 g
- 水:10 L(浴比約1:20)
- 重曹:6 g/L(=60 g/10 L)
- 粉石けん:1 g/L(=10 g/10 L)※純石けん分80%以上推奨
- 温度・時間:90〜95℃で60〜90分(静かな沸騰手前をキープ)
- 撹拌:時々やさしく上下を返してムラ防止
ポイント:弱アルカリで繊維に負担が少ない反面、時間がやや長め。
仕上がりはふっくら・やわらかになりやすい傾向。
レシピB:炭酸ナトリウム(Na₂CO₃/ソーダ灰)+粉石けん〈短時間・標準〉
- 繭:500 g
- 水:10 L(浴比約1:20)
- 炭酸ナトリウム:2 g/L(=20 g/10 L)
- 粉石けん:1 g/L(=10 g/10 L)
- 温度・時間:95〜98℃で30〜45分
- 撹拌:時々やさしく上下を返す
注意:ソーダ灰は強アルカリ寄り。温度と時間を上げ過ぎないこと。
終点に達したら引き上げて速やかにすすぐのがコツです。
すすぎと中和(仕上げのひと手間)
- 温水すすぎ:50〜60℃で10〜20分×2回を目安に、十分なリンス
- 中和すすぎ(推奨):クエン酸1 g/Lまたは食酢少量を溶かしたぬるま湯に2〜3分くぐらせ、軽く再すすぎ
└ 残留アルカリを抑え、後工程(染色等)のムラや黄変リスクを低減
完成の見きわめ
(すすぐ前に、ひとつだけ取り出してみて水で流してから確認する)
- 指で軽くつまむと形が戻らず、薄層がやさしく剥がれる
- 繭壁がやわらかく、層が均一に開く感触
- 泡立ちがやや落ち着き、浴がやや濁る(セリシン溶出のサイン)
科学のメモ(セリシンとpH)
セリシンは親水性アミノ酸を多く含むタンパクで、加熱+アルカリで可溶化が進みます。
一方、フィブロインはアルカリ熱で加水分解しやすく、分子量低下=強度低下につながります。
そのため、温度・時間・pHの三点管理が品質のカギです。
- 重曹(NaHCO₃):溶液pHはおおむね弱アルカリ(目安 pH8前後)
- 炭酸ナトリウム(Na₂CO₃):同濃度でより高いpH(強アルカリ域寄り)
安全・環境への配慮
- 保護具:耐熱手袋・エプロン・換気の確保
- 排液:十分に希釈し、クエン酸や食酢で中性近くに調整してから排水
- 固形残渣:蛹や繭かす等は堆肥へ
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よくある質問(FAQ)
Q. 重曹とソーダ灰、どちらを選べばいい?
A. 作業時間と風合いで選びます。重曹は穏やかで時間長め、ソーダ灰は短時間で進みますがやり過ぎ注意です。
Q. 石けんはなぜ入れるの?
A. 石けんは界面活性剤として働き、繭表面の汚れを落とし、水をはじきやすい繭を水に馴染ませる(濡れ性を高める)役割があります。これによりセリシンが均一に溶け出し、再付着も防げます。伝統的に石けん+炭酸塩(重曹やソーダ灰)が精練で広く用いられてきました。
Q. どこまでセリシンを落とすべき?
A. 真綿づくりでは層が素直に開く程度で十分。長時間の加熱は風合い・強度低下のリスクがあり、短時間で切り上げるのが安全です。
Q. 排水はどう処理する?
A. 十分に希釈し、中性近くに調整して排水。固形残渣は堆肥または、可燃ごみへ。地域の排水基準に従ってください。


