繭を煮る方法(絹真綿づくりの下ごしらえ)

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目的:繭の外層タンパクであるセリシンをほどよく落とし、層をふわっと開きやすくするための前処理です。
セリシンは熱+アルカリで可溶化が進みますが、やり過ぎると絹本体(フィブロイン)の強度が落ちるため、温度・時間・濃度の管理が大切です。

目次

  1. 事前準備(濡らし)
  2. レシピ(重曹版/ソーダ灰版)
  3. すすぎと中和
  4. 終点の見きわめ
  5. 科学のメモ(セリシンとpH)
  6. 安全・環境への配慮
  7. 関連リンク
  8. よくある質問(FAQ)

注意:長時間・高温・高アルカリは繊維ダメージのリスクがあります。
本ページの温度・時間・濃度はあくまでも私たちの工房でのやり方です。

事前準備(濡らし)

乾燥繭は浮きやすくムラになりやすいので、煮る前に十分に含水させます。

  • 温水で30〜60分浸漬(前日から一晩浸け置きでも可)
  • ゆっくり押し沈め、繭の内部まで水を行き渡らせる
含水させると沈みやすくなり、煮えムラが減ります。

レシピ(重曹版/ソーダ灰版)

工房の作業では、穏やかに進める重曹(NaHCO₃)版と、短時間で仕上げる炭酸ナトリウム(Na₂CO₃=ソーダ灰)版の両方を使い分けます。

分量表記の考え方:基本は g/L(溶液濃度)浴比 で統一します。
目安:繭500g:水10L(浴比1:20)

レシピA:重曹(NaHCO₃)+粉石けん〈やさしく・じっくり〉

  • 繭:500 g
  • 水:10 L(浴比約1:20)
  • 重曹:6 g/L(=60 g/10 L)
  • 粉石けん:1 g/L(=10 g/10 L)※純石けん分80%以上推奨
  • 温度・時間:90〜95℃で60〜90分(静かな沸騰手前をキープ)
  • 撹拌:時々やさしく上下を返してムラ防止

ポイント:弱アルカリで繊維に負担が少ない反面、時間がやや長め。
仕上がりはふっくら・やわらかになりやすい傾向。

レシピB:炭酸ナトリウム(Na₂CO₃/ソーダ灰)+粉石けん〈短時間・標準〉

  • 繭:500 g
  • 水:10 L(浴比約1:20)
  • 炭酸ナトリウム:2 g/L(=20 g/10 L)
  • 粉石けん:1 g/L(=10 g/10 L)
  • 温度・時間:95〜98℃で30〜45分
  • 撹拌:時々やさしく上下を返す

注意:ソーダ灰は強アルカリ寄り。温度と時間を上げ過ぎないこと。
終点に達したら引き上げて速やかにすすぐのがコツです。

すすぎと中和(仕上げのひと手間)

  • 温水すすぎ:50〜60℃で10〜20分×2回を目安に、十分なリンス
  • 中和すすぎ(推奨):クエン酸1 g/Lまたは食酢少量を溶かしたぬるま湯に2〜3分くぐらせ、軽く再すすぎ
    └ 残留アルカリを抑え、後工程(染色等)のムラや黄変リスクを低減
中和すすぎは短時間でOK。過度な酸性条件は不要です。

完成の見きわめ

(すすぐ前に、ひとつだけ取り出してみて水で流してから確認する)

  • 指で軽くつまむと形が戻らず、薄層がやさしく剥がれる
  • 繭壁がやわらかく、層が均一に開く感触
  • 泡立ちがやや落ち着き、浴がやや濁る(セリシン溶出のサイン)
層が素直に開けば終点。ここで上げるのが品質キープのコツ。

科学のメモ(セリシンとpH)

セリシンは親水性アミノ酸を多く含むタンパクで、加熱+アルカリで可溶化が進みます。
一方、フィブロインはアルカリ熱で加水分解しやすく、分子量低下=強度低下につながります。
そのため、温度・時間・pHの三点管理が品質のカギです。

  • 重曹(NaHCO₃):溶液pHはおおむね弱アルカリ(目安 pH8前後)
  • 炭酸ナトリウム(Na₂CO₃):同濃度でより高いpH(強アルカリ域寄り)

安全・環境への配慮

  • 保護具:耐熱手袋・エプロン・換気の確保
  • 排液:十分に希釈し、クエン酸や食酢で中性近くに調整してから排水
  • 固形残渣:蛹や繭かす等は堆肥へ

よくある質問(FAQ)

Q. 重曹とソーダ灰、どちらを選べばいい?
A. 作業時間と風合いで選びます。重曹は穏やかで時間長め、ソーダ灰は短時間で進みますがやり過ぎ注意です。

Q. 石けんはなぜ入れるの?
A. 石けんは界面活性剤として働き、繭表面の汚れを落とし、水をはじきやすい繭を水に馴染ませる(濡れ性を高める)役割があります。これによりセリシンが均一に溶け出し、再付着も防げます。伝統的に石けん+炭酸塩(重曹やソーダ灰)が精練で広く用いられてきました。

Q. どこまでセリシンを落とすべき?
A. 真綿づくりでは層が素直に開く程度で十分。長時間の加熱は風合い・強度低下のリスクがあり、短時間で切り上げるのが安全です。

Q. 排水はどう処理する?
A. 十分に希釈し、中性近くに調整して排水。固形残渣は堆肥または、可燃ごみへ。地域の排水基準に従ってください。