天蚕の飼育記録

天蚕について

天蚕の正式名称はヤママユガです。

学名はAntheraea yamamai Guerin-Meneville

分類学上は昆虫綱、鱗翅目、カイコガ上科、ヤママユガ科

日本原産の大型の野生絹糸虫で、ほぼ全国の山野で、クヌギ、ナラ、カシワ、カシなどの葉を食物として生息しています、地域によりテンサン、ヤママユ、ヤマコなどと呼ばれ、昔から親しまれています。

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自然状態で年に1回だけ卵が孵化する一化性で、卵の状態で越冬します。

4月下旬から5月上旬に卵が孵化し、50~60日間に4眠5齢(4回脱皮)の発育経過をたどり、6月頃繭を作り、暑い夏の時季は蛹態で過ごします。そして、8月~9月に羽化します。

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工房では、繭の状態で収穫し、室内の飼育ネットに入れ、成虫が羽化し交尾、産卵を見守ります。成虫の羽化は個体差によりなかなかタイミングが合わないので、一番難しいところです。

卵は冬を越し、2月から3月頃孵化をおさえるために、冷蔵庫の野菜室に入れ山付けまで保存します。

4月

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先ずは、伸びきってしまったくぬぎの木の枝をネットにぶつからないくらいまで剪定し、下草を刈り、ネットをはります。

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ネットに少しでも穴があいていると、ハチやハエ、鳥、ネズミなどの天蚕に加害する動物が入ってしまうので、ネットを確認しながら、しっかり防除します。

その後、すでに入り込んしまっている虫たちを取り除きます。

山付け

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毎年、天蚕の卵の山付け(卵をクヌギの木の枝につけること)は、クヌギの木が芽吹く5月の連休の頃に行います。

先ずは、山付けの前日に冷蔵庫の野菜室で保管していた卵を出し、ガムテープに約10粒づつ貼り付け、孵化した際に幼虫が貼りつかないように無添加のベビーパウダーを振りかけておきます。

和紙に卵を糊づけして枝に張り付ける方法もありますが、私達の工房では当初よりガムテープに張り付けて孵化をさせています。風や雨に強そうなので・・・。

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翌日、卵のついたガムテープを枝に巻き付けホチキスで留めていきます。 1本の木にガムテープ2枚ぐらいつけます。

そして、孵化を待ちます。

孵化

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山付けをした天蚕の卵は一週間ほどで孵化をします。

個体差や山付けをした木の位置にもよりますが、最近では卵を冷蔵庫の野菜室から取り出して4日ほどで孵化することもあり、春が暖かくなっていることを感じます。

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無事に孵化をした幼虫たちは、クヌギの木の若葉を探し動き出します。

孵化をした時に若葉がないと、幼虫たちは食べるものがなく死んでしまうので、タイミングが難しいです。

孵化幼虫は体長が6mmぐらいで、体は黄色っぽい色をしていて、黒い毛が生えています。

天蚕の幼虫は4眠5齢の発育経過をたどります。

1齢期

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1齢期は眠に入るまでの約7日ほどです。

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一週間ほどすると、天蚕の幼虫は静止した状態になります。それが1回目の眠に入った状態です。

天蚕の幼虫がいつ眠の状態に入るのかは、飼育する樹の種類や葉の質、そして幼虫の消化率によって違ってくるようです。

天蚕が成長する1カ月間は飼育樹の葉の変化も著しいので、その葉の状態によって天蚕の成長過程も変化していきます。

2齢期

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眠から目覚め脱皮をし、2齢目に入りました。

幼虫の後ろにあるのが脱皮したものです。

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脱皮した抜け殻も幼虫と同じ形をしているので、飼育を始めた当初は幼虫が死んでしまったのかと思ったほどです。

こちらの幼虫はこれから脱皮をする模様です。体の色合いがいつもより強張った感じです。

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脱皮を終えた天蚕たちは2齢目になります。

そして、孵化後約15日目で2回目の眠の状態に入ります。

3齢期

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天蚕の幼虫たち脱皮を終え3齢目にはいります。

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飼育ネットがしてあるのでこの畑は安全ですが、幼虫は鳥に食べられてしまうことが多いようです。

自分の身を守る為に、クヌギの葉にそっくりな形や色です。

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3齢になって約7日程で、4齢への眠と脱皮をします。

4齢期

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4齢目の幼虫です。

4齢目にもなると、大きくなります。

脚の把握力がとても強いので、幹や枝、葉にしがみついてあちこちへ移動します。

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孵化後約30日目

最後の眠に入っているようです。

5齢期

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最終齢5齢目の幼虫です。

孵化後約41日目です。

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全齢期間に生葉で約43gを食べるといわれています、その内の約74%を5齢期中だそうです。

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天蚕の幼虫は、繭をつくり始める前には特に移動性が高くなるようです。

木に戻れるのかと心配になりますが、あちこち動き回った後、戻っていきました。

営繭

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孵化後約50日ほどで、繭を作り始める幼虫も出てきます。

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上と下にと向きを変えながら、糸をはき、きれいな楕円形を作っていきます。

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しっかりした繭になるのに約3日かかります。

蛹化

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そして、中の幼虫が蛹になるのには繭をつくり始めてから6日目ごろになります。

繭をつくっている最中に触ってしまうと、繭をつくるのをやめてしまうこともあるので、営繭中はそっと見守ります。

成虫

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蛹期は、夏の暑い間に夏眠します。そして、8月~9月頃羽化が始まります。

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羽化する前に、収穫し飼育ネットに入れ、次の種を・・・。というサイクルになります。

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羽化をさせない繭は糸になります。

天蚕の糸は、家蚕糸とは違い独特な黄緑の光沢と張りのある風合いが特徴です。

昔から『繊維のダイヤモンド』と呼ばれ、珍重されています。

繭になった時に、どのくらいの日光に当たっていたかで、色が違ってきます。

光によく当たるほど、緑色が濃くなるようです。

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そして、その糸を使って織りあげ、1枚の布ができあがります。

普通の絹の糸に比べて、繊細なので織るのに時間がかかりますが、美しい自然の輝きの布が出来上がります。

この地域で天蚕の飼育を最初に始めた方が数年前にお亡くなりになりました。

最初は、ご夫婦で天蚕の卵を山で探して、そこから増やしていったのが始まりだそうです。

自然環境の変化で、植物や生物の日本の在来種や固有種が減少している現在、野生の天蚕にも何らかの影響がでていると思います。

自然の色の輝きを放ち、天蚕(その他の野蚕や養蚕もそうですが)の命がつまった布の創作を通して、物や命を大切にする心を伝えていきたいという思いがあります。

だからこそ、これからも天蚕の種を守っていきたいです。