作品をつくっていると、あとから振り返って、
「あの景色が、この布のはじまりだったのかもしれない」
と思うことがあります。
《茜影》も、そんなふうに生まれた一枚です。
鹿児島・霧島神宮駅舎内の光来 慈慈での作品展を終え、船で帰京する途中、海の上で夕日を見ました。
最後にぐっと力強く輝く太陽と、そのあとにやってくる深い暗闇。
その移ろいがあまりにも印象深く、ずっと心に残っていました。

鮮やかに燃えるような赤ではなく、
光を奥に抱えたような赤。
そして、その光を受け止めるような黒。
《茜影》を織っているとき、私の中にはいつもあの夕方の海の景色がありました。
赤と黒を並べるというより、
光がまだ残っている時間と、静かな闇が満ちてくる時間を、
一枚の布の中にそっと重ねていくような気持ちでした。

2025年は、工房の中で「赤と黒」を何度も見つめてきた一年でもありました。
その流れの中で生まれたのが《茜影》です。
からみ織りの透けと密度のあいだで、赤と黒の気配が、光の角度によって静かに入れ替わります。
軽やかなのに、首元ではやさしく沿って、すべりにくい。
眺めていても、身につけても、強く主張しすぎず、けれどふっと気配を残すような布になりました。
この作品には、これまで使ってきた正絹糸、絹強撚糸、太さの異なる絹真綿の手紡ぎ糸に加えて、1000個の繭から引いた糸や、小石丸の糸も織り込んでいます。
特別な素材を入れながらも、ただ強いだけの布にはしたくなくて、やわらかさと静けさがきちんと残るように、整えながら織りました。

からみ織りは、糸のあいだに空気を含む織りです。
そのため、巻いたときに透けや奥行きが生まれ、見る場所や時間によって印象が少しずつ変わります。
夕日から暗闇へ向かうあの時間のように、《茜影》もまた、ひとつの色に留まらず、静かに移ろっていく布になったように思います。
現在オンラインショップでご紹介している Signature の作品も、同じ流れの中から生まれています。
《茜影》は特別仕様の一枚ですが、いまご覧いただける布にも、あのとき見た景色の余韻は少しずつつながっています。
現在ご覧いただける作品はこちらです。
https://yamamayu.thebase.in/items/137780422
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