
糸が、布になるために整えられていく時間。
整経は、織る前に経糸を整える工程です。
何本の糸を、どの長さで、どの順番に、どのくらいの張りで並べるのか。
その一つひとつを整えることで、糸は少しずつ、布になるためのかたちを持ちはじめます。
完成した布からは見えにくい工程ですが、整経の時間は、その後の織りの安定や、布の表情を静かに支えています。
整経で整えていること
整経では、布の土台となる経糸を準備します。
経糸は、織機にかけられ、緯糸を受け止めながら布の幅や長さを形づくる糸です。
工房では、布の仕上がりを考えながら、糸の本数、長さ、張り具合、色の並びを決めていきます。
- 本数:布の幅や密度に合わせて、必要な糸の数をそろえる
- 長さ:仕上がりの長さに、織りはじめや織り縮みを含めて考える
- 張り:強すぎず、ゆるみすぎず、糸の状態を見ながら整える
- 順番:綾を取り、糸が交差する順序を保ちながら織機へ渡す
数字で決める部分と、手で確かめる部分。
その両方が重なって、経糸は布の土台になっていきます。
工房の2つの整経の道具
改良・動力整経機
昭和初期の機械に手を入れながら使い続けている整経機です。
長さのある布、大きな幅の布、色数の多い経糸を整えるときに使います。
糸を安定して巻き取り、長さや本数を確認しながら進められるため、ストールや広幅の布づくりを支えています。
木製整経枠
手で糸を回しながら、少量の経糸を整えるための木の道具です。
足踏み織機での試作や、小さな作品、配色を確かめるときに使います。
糸の動きや張りを近くで感じながら進められるため、試しながら整える仕事によく合います。
整経の流れ
整経は、布の設計を決めるところから始まります。
糸を準備し、順番を保ちながら経糸を整え、巻き取り、織機へ渡していきます。
- 布の設計を決める:仕上がり寸法、幅、密度、本数、配色を考える
- 糸を準備する:糸の量、色、状態、ボビンの残量を確認する
- 経糸を整える:綾を取りながら、糸の順番と張りをそろえる
- 巻き取る:糸が乱れないように、お巻きへ移していく
- 織機へ渡す:綜絖通し、筬通し、巻き取り、試し織りへ進む
一つずつは静かな作業ですが、どこかが曖昧になると、その先の織りに小さな乱れとして現れてきます。
数字で決め、手で確かめる
必要な長さや本数は、あらかじめ計算して決めます。
仕上がりの長さだけでなく、織りはじめ、織り残り、織り縮みも含めて考えます。
筬に通す幅や、経糸の総本数は、仕上がりの幅や密度によって変わります。
そこに、糸の性質、織機の癖、色の並び方を重ねて考えていきます。
計算で見えてくるものと、手で触れて初めてわかるもの。
整経は、その間を行き来しながら進める仕事です。
木枠で整えるとき
木製整経枠では、決めた長さに合わせて糸を回し、綾を取りながら経糸をつくります。
糸の張りは軽く、一定に。手の感覚で確かめながら進めます。
枠から外した経糸は、絡まないようにまとめ、織機へ渡せる状態に整えます。
小さな試作や色替えの多い制作では、この木枠の時間が大切な準備になります。
古い整経機で整えるとき
改良・動力整経機では、糸立て、テンション装置、長さを確認する装置を整えたうえで、たくさんの糸を均一に並べていきます。
回数を数え、糸の張りを見て、切れそうな糸がないかを確かめる。
機械を使う工程でありながら、手と目と耳をずっと使い続ける時間でもあります。
長い布や広い布では、わずかなゆるみも織りに影響します。
そのため、整経のあいだは、糸と機械の小さな変化を感じ取りながら進めています。
糸の張りと、道具の手入れ
経糸の張りは、強すぎても、ゆるみすぎても、布に影響します。
糸が切れないように、乱れないように、その日の糸の状態を見ながら整えます。
古い整経機は、日々の手入れをしながら使い続けています。
革や金具を替えたり、必要なところを直したりしながら、今の布づくりに合わせて少しずつ手を入れています。
道具を直しながら使うことも、工房の仕事の一部です。
糸を整える時間と同じように、道具を見守る時間も、布づくりを支えています。
完成すると見えなくなる時間
整経は、完成した布を見たときには前面に出てこない工程です。
けれど、経糸が整っているからこそ、緯糸を受け止め、布は少しずつ織り上がっていきます。
布の表情の奥には、糸を数え、張りを見て、道具の音を聞きながら整えていく時間があります。